★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

ダンスの手ほどき3

各話表紙

「なるほど、たしかにこれはひどい」

 そう言いながらもカーティスは少しも気分を害しておらず、どこか楽しそうだ。

「申し訳ありません……」

「ひどいが、ステップ自体はきちんと覚えているし、君はタイミングが悪いんだな。ヴァイスの報告どおりだ」

「がっかりしましたよね……家庭教師までつけてもらっているのに、こんなに踊れないなんて」

「そんなことはない。さ、もう一度、踊ろうか」

「え? でも、またカーティスさまの足を踏んでしまいます。これ以上踏むかと思うと、踊るのが怖いです……」

 カーティスがエスコートしようとするが、ティナーシェはその場から動けない。

「私を信じろ、ティナーシェ。君は踊れる」

 重い気分のティナーシェとは逆に、軽やかな笑みを浮かべ、カーティスは彼女を誘った。

 それを合図にバイオリン奏者がふたたび曲を奏ではじめる。

「……っ」
(いや! もうこれ以上王さまの足を踏みたくないっ)

 ティナーシェはギュッと両目を閉じた。

 そのとき、ふわりとカーティスのいい匂いがして、はっと気づいたときには額に口づけられていた。

「君は緊張しすぎだ。足にばかり気を取られて動きが固くなっている。そんなに足が気になるなら、私の顔を見ていろ」

「わかり、ました……」

 ついさっきまで不安だった心が、一気に軽くなる。

 力強く穏やかなカーティスの瞳が大丈夫だと言外に告げる。

 ティナーシェが躓きそうになって不安になるたびに、カーティスはやさしく微笑みかけた。

 その笑みを向けられるたびにティナーシェは恥ずかしかったが、同時に嬉しくて安心した。

 そして曲の中ほどまで来たとき、ティナーシェは気づいた。

(そういえばわたし、さっきから一度も王さまの足を踏んでいない……?)

「なんで?」

 思わず疑問が口をついて出た。

 訳がわからないでいると、カーティスがクスクス笑っている。

「どうだ、まだ踊るのが怖いか?」
「いいえ、怖くありません……でも、不思議です」

 嬉しさと疑問で頭が一杯になっていると、いつの間にか曲が終わっていた。

「踊れたな、ティナーシェ」
「訳がわかりません……」

 もしかしてこれは夢なのだろうか。

 あれだけ人の足を踏みまくっていた自分が、一度も足を踏まなかったのだ。

「なにも不思議な事はない。最初に君と踊ったときに、君の足運びを覚えて避けただけだ」

 そうなのだ。

 カーティスは最初の一回目でわざと足を踏まれながら踊ることで、ティナーシェの足運びを理解した。

 あとは持ち前の運動神経の良さでそれを回避したわけだ。

 だがこれはカーティスだからできたことで、ダンスの教師にはできない技だった。

「だが完璧とは程遠い。次はリズムを合わせないといけないな」

 ティナーシェは感動のあまり言葉にならず、ひたすらカーティスを見つめる。

 ここに来てからずっと重荷に感じていたことが、あっという間に解決してしまった。

「カーティスさまは、なんでもできるんですね」
「そんなことはない。現に君が肩に矢を受けたとき守れなかった」

「あれは、不可抗力でしたから。カーティスさまのせいではありません」

 ティナーシェが微笑むと、カーティスも微笑み返した。

「そういえばミレーユがそのことで君を少し見直したと言っていたな。身を挺して王を守るなど早々できるものではないと感心していた」

「そうなんですか!? わたし、嫌われているものだとばかり……」

 ザールワースに戻ってからずっとこの屋敷にいるので、ミレーユとは長いこと会っていなかった。

 一時は本を取り上げられたりもしたが、そんな彼女が自分を少しとはいえ認めてくれたのがティナーシェは嬉しいと感じた。

「彼女は極端な行動さえなければ、そう問題はないんだがな……」

 花壇の花をごっそり植え替えられていた話を思い出し、ティナーシェはくすりと笑った。

 少し休憩を挟んだあと、カーティスに手を差し出される。

 今度は迷うことなくティナーシェは自分の手をカーティスのそれに重ねた。

「ティナーシェ、ここのターンはゆっくりでいい」
「はい」

 カーティスはひとつひとつの動作を、とても丁寧に解説してくれる。

 このターンはいつもティナーシェが苦労していたパートだった。

 それがカーティスの一言であっさり解決した。

 さらにカーティスは続ける。

「向きを変えるとき、気持ち早く足を出すんだ。腰から動くように」
「はい」

(あ……すごく動きやすい。たったこれだけでこんなに違うんだ)

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~