暴かれた秘密2

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

「まだあるぞ。私を殺しに来たくせに、蜂一匹に怯えていたし、私と結婚したいと言いながら行儀見習いというのも矛盾している。訓練を受けた暗殺者であれば蜂なんて一瞬で仕留められる。公爵家なら縁談を申し込めばいい。しかし君はそのどちらにも一致しなかった。だから私は君の様子を探るために、できるだけともに過ごす時間を増やした。たとえ君が襲ってきたとしても、ねじ伏せることは容易いからな」

「…………」

 ティナーシェはもう言葉が出なかった。

 この王は本当に聡明だ。

 すべての面において最初からティナーシェが敵う相手ではなかったのだ。

「それに君が私を見る目だけが、他人のときと違っていつも泣きそうだった。ひどく悲しげでいてとても澄んだ目をしていて……そんな目で見つめられたら嫌でも気になる。あの物悲しい瞳には、誰も傷つけたくないという君の想いが現れていたんだな」

「違います……わたしはそんなに綺麗な心の持ち主じゃありません。だってわたしは、弟を助けるためにカーティスさまを……」

(理由はどうあれ、わたしは王さまを殺そうとした……とても罪深い人間だ……)

「知っている。ヴァイスに命じて君のことを調べさせたからな。誰が君にこんな無茶な命令をしたのかも、君の本当の身分もわかっている」

 いつからかわからないが、カーティスはすべて知っていたということだ。

 その上でティナーシェを泳がせていたということになる。

(そんな……この人は、わたしが何者でどんな命令を受けてここに来たのか知ったうえで、あんなに普通に接してくれていたの? そうとも知らずにわたしは……)

 限界を超えたティナーシェの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「これまでの数々のご無礼、お許しください」

 ティナーシェは深々と一礼すると、カーティスの手元にある銀のナイフを奪い、喉に突き立てようとした。

 が、あっさりとカーティスに取り上げられてしまった。

「早まるな。私は君の命など欲しくないし、君がいなくなったら弟が悲しむだろう」

「失敗したうえにすべてバレてしまった今、生きていたって……どうせ弟も殺されてしまう! だったらもう、わたしにできることは、これくらいしか……」

 自害さえできない絶望感にティナーシェは泣き崩れた。

 悔しくて情けなくて、未遂とはいえ人を殺そうとした罪悪感に心が押し潰された。

 心の中で激情が逆巻き、嗚咽となった。

 なりふり構っている余裕など消え失せ、子供のように泣きじゃくる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……――」

 懺悔の言葉が自然と小さな唇から繰り返される。

 ティナーシェはこんなに激しく泣くのは人生で初めてだった。目の奥が熱くて痛い。

「君がやりたくてやったことじゃない。たった一人の家族である弟を人質に取られたら、きっと誰でも君のようにするだろう。それに私はこういったことには慣れている。だから、そんなに自分を責めるな」

 激しい嗚咽で息苦しくなっていると、カーティスがやさしく背中を撫でてきた。

 背中越しに感じるその大きな手のぬくもりに、ティナーシェの目から新たな涙があふれた。

(あったかい……この人の傍にいるとあたたかくて、安心する……大きな愛で包み込まれている気がする……王さまって皆こうなのかな……)

 泣くだけ泣いて泣き止んだティナーシェは、涙でぐちゃぐちゃの顔を拭いた。

 それからすっと顔を上げ、カーティスを真っ直ぐ見据えて、こう言った。

「お詫びのしようもございません。どんな罰でもお受けします。どうぞ陛下のお心のままに……」

 ティナーシェは深々と頭を下げ、カーティスの言葉を待つ。

 自分は王女に命じられたとはいえ、国王を弑逆しようとしたのだ。

 極刑は免れないだろう。

 しかしそれでいいとティナーシェは思う。

 自分が好きになった人が下した決断なら、喜んで受け入れられると。

 叶うならばほかの誰かではなく、カーティス本人の手にかかってあの世に行きたい。

「ならばその命、私が預かる」
「え……?」

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~