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出発4

各話表紙 偽りの公爵令嬢は~

 二時間ほど馬車を走らせると、ザールワース国に入り、やがて城に到着した。

 城門を抜けるとすでに使用人や侍女が並んで待っていた。

 総勢五名の出迎えだ。一同は寸分の誤差もなく、同じ速さと角度でティナーシェに頭を垂れる。

 これほど揃った礼を見たことがないティナーシェは、行き届いた教育に素直に感心した。

「アッシュバーグ公爵家のティナーシェさまですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 そう、ティナーシェは王女の根回しにより、このザールワース国に行儀見習いの公爵令嬢として訪れたのだ。

 ――表向きは。

(気は進まないけど……わたしにはほかに選択肢がない。王さまにはなんの恨みもないけどラーダはわたしにとってかけがえのないたった一人の家族だもの)

 自分を先導して歩く侍女の背中をぼんやりと見つめながら、ティナーシェは少し重い足取りで歩みを進める。

 白で統一されたザールワース城は故郷のブレイユ国の城より数段美しく見えた。

 城内に入ると白い回廊をしばらく歩き、中庭と思われる場所を過ぎる。

 そこからまた白い回廊を少し歩くと、とある一室の前で侍女が立ち止まる。

 侍女は三回ノックすると扉を開けて、こう言った。

「こちらが本日からティナーシェさまがお過ごしになる部屋でございます」
「……まあ……」

 侍女に案内された一室は白と赤で統一されていた。

 床には深紅の絨毯が敷き詰められ、壁や天井、窓枠、カーテンに至るまですべて白で揃えられている。

 部屋の中央にある白い丸テーブルには、繊細な装飾が施された白い花瓶に色とりどりの季節の花が生けられている。

 赤にピンク、黄色、白と見ているだけで心が和らぐ。

 中でも大振りの白百合がティナーシェの心を明るくさせた。

 部屋を見回すティナーシェに見覚えのあるものが目に入る。

 家を出てくるときに馬車に積み込んでいた衣装ケースだ。

 ボロが出ないようにと王女から念を押され、用意された上質のドレスが詰まった衣装ケースである。

「さっき着いたばかりなのに、もう衣装ケースが運んであるんですね」

 素早い対応に敬意を評し、ティナーシェは侍女に微笑みかけた。

 すると侍女は褒められたことが嬉しかったのか、わずかに頬を赤らめ小さく会釈した。

「一時間後に陛下と謁見することになっております。それまでに再度身支度を整えていただきますようお願い申し上げます」

「はい、わかりました」

(そうね、このドレスも素敵だけど移動用のドレスだもの。王さまに会うのにふさわしいドレスに着替えなくちゃ。でも少し疲れちゃった……)

 ティナーシェは、とりあえず無事に城についたことに安堵し、ほうと息を吐いた。

「お疲れでしょう。こちらへどうぞ、ティナーシェさま。冷えたカモミールティーをご用意いたしました」
「ありがとうございます」

 侍女の気遣いにやさしい気持ちになり、ティナーシェは丸テーブルに歩み寄り席についた。

 白のティーポットから白の陶器のカップに、洗練された仕草でカモミールティーが注がれる。

 些細な音も立てず、すっと自分の前にカモミールティーが差し出される。

「いただきます」

 ティナーシェは陶器製のカップを手に取ると、こくりと一口飲む。

 口内に林檎のような爽やかな香りが広がり、自然と笑みがこぼれた。

「おいしい……」

 ようやく一息つくことが出来たティナーシェは、椅子に背中を預ける。

 まだ事態はなにも解決していないが、少しだけ気持ちが楽になった。

 それからしばらく休憩をとり、ティナーシェは着替えることにした。

 ずっと傍で控えていた侍女が着替えを手伝ってくれたので、すんなりと衣装替えが済んだ。

「よくお似合いです、ティナーシェさま」
「ありがとうございます。あなたが手伝ってくれたおかげで、とても着やすかったです」

 ティナーシェが侍女に微笑むと、彼女はとある疑問を口にする。

「あの、ティナーシェさま……つかぬことをお伺いしますが、衣装ケースの大きさの割に中に入っているドレスが少ないように感じるのですが……」

 どうやら侍女は着替えを手伝う間、ずっとそのことが気になっていたらしい。

 早く理由が知りたいといった様子でそわそわしている。

「こんな些細なことに気づくなんて、あなたは優秀なんですね。実は来る途中で、ドレスを詰め込みすぎたなって思って途中で減らしたんです」

 ティナーシェの言葉は半分、嘘だ。

 本来侍女として働く彼女は、衣装の準備など熟知しているし詰め込みすぎるわけがない。

 ここに来る途中で出会った老人の生活費のために、数着のドレスと装飾品を質に入れお金に変えたのだ。

 ――だから衣装ケースには四分の三程度しかドレスが入っておらず、侍女が少ないと感じたのも当然のことだった。

「そうだったんですか。そういえば自己紹介がまだでした。私はエリザと申します。ティナーシェさまのお世話全般をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げるエリザに、ティナーシェも同じように礼をした。

「ザールワースは初めてなので、色々面倒をかけると思いますがよろしくお願いします、エリザさん」

「滅相もございません! 今日からあなたが私の仕える主ですから。なにかございましたら遠慮なくお申し付けください」

「頼りにしています」

 ティナーシェとエリザはお互い微笑みあった。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~