★2/15:雑記更新 ・「嘘つき聖女候補~」と「座学の女王さま~」をメインに更新中。

出発3

各話表紙

「きゃっ」

 いきなり馬車が止まった。

 何事かと窓から外を見ると、道のど真ん中にみすぼらしい姿の老人がうずくまっていた。

 ティナーシェが様子をみていると、御者が降り老人の前に立った。

「おい、通行の邪魔だ。そこをどけ! 轢かれたいのか!」
「どうか、お慈悲を……」

 ボロ布を身にまとった老人の体は枯れ木のように細く頼りない。

 服は汚れが染み付き、唇が乾ききっている。

 誰の目にもまともに食事をしていないことが明らかだった。

 こんな人がほとんど通らない場所では、ろくな生活はできていないだろう。

「退けと言ってるんだ、汚らしい老いぼれめ!」

 白髪の老人はふるふると震えながら身を縮こまらせた。

 ティナーシェは堪らず、馬車から降り老人に駆け寄った。

「怖がらせてごめんなさい。でもわたしは今お城に向かう途中なんです。あなたがそこにいたら馬車を走らせることができません。どうぞ、中へお入りください」

 ティナーシェはそっと老人の手を取ると、一緒に馬車に向かって歩き、中の座席に腰を下ろした。

 馬車の扉を締めたとたん、老人はぽたぽたと涙を落とした。

「……っ」

 なにか言葉をかけようとしたティナーシェだが、老人の体のあちこちに見える痣が喉を詰まらせた。

 きっとこれまで幾度となく慈悲を請い、蹴る殴るなどの暴行を受けたのだろう。

 それが見ている自分にまで伝わってきて、ティナーシェは胸が締めつけられた。

「これで、涙を……」

 そっと白いハンカチを老人に渡す。老人は本当に嬉しそうに、両手で白いハンカチを受け取り涙を拭った。

 すぐに白いハンカチが土埃の色になる。

 まともに湯浴みもできていないのだ。

「もうしわけない……」

 ハンカチを汚してしまったことに対し、老人が詫びる。

 しかし、ティナーシェは気分を害した様子もなく、微笑みを向けた。

「近くの街までお送りします」
「しかし……」
「わたしに任せてください。大丈夫ですから」

 ティナーシェは老人を安心させるようにしっかりと言葉を口にした。

 やがて街につき、ティナーシェは馬車を止めてもらうと、いそいそと座席から降りて荷台に回ったあと人混みに消えていった。

 それから半刻ほどしてティナーシェが戻ってきた。

 その顔に浮かぶのは笑顔だ。手には男性者の普段着が握られている。

「受け取ってください。大した額は用意できませんでしたが、しばらくはこれで生活できると思います」

 服と共にいくらかの硬貨が入った袋を老人に手渡すティナーシェ。

 反射的に服と硬貨を受け取った老人は、再び涙をこぼした。

「女神さま……女神さまだ……」
「そんな、とんでもないです。一時的かもしれませんが、あなたを助けたいと思っただけで……」
「ありがとうございます。なんとお礼を申し上げてよいのやら……」

 老人の言葉にティナーシェはふるふると首を振る。

「中途半端にしか力になれなくてごめんなさい。お城に行かなくては……どうぞ、お元気で……」

 涙が止まらない老人の目元を丁寧にハンカチで拭ってやると、ティナーシェは馬車の座席についた。

 御者の掛け声で再び馬車が出発し、その後姿が小さくなるまで、老人はずっとずっと見守り続けていた。

 

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偽りの公爵令嬢は~
~桜猫*日和~