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王女様は賭けレースがお好き5

各話表紙:護衛騎士 護衛騎士は~

 二十万ルナーといえば、新人騎士がひと月暮らしていける程度の金額だ。

 それをあっさり全額賭けたユージェニーを複雑な心境でエリーアスは見ていた。

 だがエリーアスの懸念はそう大きくない。

 なぜなら、彼も半分以上は彼女が賭けたワタブタが一着になるだろうという思いがあるからだ。

 そう信じるだけの理由が彼にはあった。

 ユージェニーの専属護衛騎士になってから、今回のようにこの五年の間、幾度もワタモノレースに参加してきた。

 そして、始めのうちはどんな不利なものに賭けたと思えたものでも、ことが済んでみればユージェニーが賭けたワタモノは、面白いように一位になっているのだ。

 恐ろしいほどの強運の持ち主である。これを才能と言わずしてなんと言おう。

 しかし、目の前の光景は一位とは程遠い。

 ワタブタ以外のワタモノたちとは、もう五十メートルほどの差がついてしまっている。

「かなり差がついてしまいましたね」

 二人の周囲からは観客達の興奮した応援が響く。

「ワタイヌー! 最後まで一気に行っちまえええええ!」
「ワタネコ可愛い! ワタネコ頑張れ!」
「ワタネズミ逃げてー! 超逃げてー! そして一着になるんだ!」
「ワタウサギー! 後ろ後ろ! ネコとネズミに追い抜かれるなああああ!」

 しかし、ワタブタへの声援だけは聞こえてこない。

 不人気だ。

 ユージェニーは目一杯肺に空気を吸い込むと、口元に両手を添えて叫ぶ。

「ワタブタちゃあああん! わたしは君に期待しているぞ、頑張れー!」

 側に居た観客達が一瞬、ワタブタだって? という視線を向けたが彼女は気にしない。

「ワタブタちゃああああぁん! わたしはここよー! カモーーーーン!!」

 ユージェニーの思いが届いたかどうかはわからないが、ワタブタがとてとてと歩き始める。

「きゃー! 動いたー!」

 動いたと言ってもビリなのだが、ユージェニーはかなりご満悦だ。

 可憐な花が咲き綻ぶように笑みを浮かべる。

「悪くないですね」

 彼女の喜ぶ顔を見てエリーアスがそう告げると、心底嬉しいとばかりにユージェニーは笑った。

「うんっ! ここからどんどん巻き返すんだから!」

 彼女の青い瞳が膨らむ期待に、キラキラと輝く。ワタブタの勝利を信じて疑っていない目だ。そんなユージェニーをほんの少し眩しそうにエリーアスは見つめる。

 マイペースに歩くワタブタは、ごきげんそうに細い尻尾をぴるぴると振りながら、コースを真っ直ぐに進む。

 目前にはワタネコとワタネズミがいる。そのとき、ワタネコがふと立ち止まり後ろを振り向いた。

 そしてなにを思ったのか、ワタブタの方に走っていき……そのままスタート地点まで逆走していった。

「なんでだワタネコおおおおお!」

 ワタネコに賭けた客たちから落胆の声が上がる。

 と、同時にワタイヌがコースを外れて観客席の方に行ってしまった。

 必死に戻るように促す観客達であるが、ワタイヌは遊んでくれているものだと思い、その場をぐるぐる徘徊する。

 これでワタネコとワタイヌは脱落した。

 やがてワタウサギと並んだワタブタは、二匹仲良くコースを進む。

 少し先を行くワタウサギがまるでエスコートしているようにも見える。

 ときおり後ろを振り返り止まるのだ。

 それはワタブタを待っているように見えた。

「うふふ、可愛い。仲良しさんだね~」

 レースの勝敗も大事だが、ユージェニーはワタモノたちの愛らしさにメロメロだ。

 丸い綿に短い手足が生えたようなワタモノたちが動くだけで、可愛くて可愛くてしょうがない。

 短い足で歩いているだけで、なんだか健気に思えて応援したくなるのだ。

 少し前を行っていたワタネズミはコースの途中でピタリと止まったまま動かない。

 よって、今まともにコースを進んでいるのはワタブタとワタウサギのみとなった。

 二匹は仲良く進み、ゴールまであと一歩という所まで来た。

 このまま行けば一着はワタウサギである。

 しかし、ここで予想外のことが起きた。

 コースにワタイヌが戻ってきたと思うと、ワタウサギへ近寄っていき吠えたのだ。

 すると、ワタウサギはなにを思ったのか、ワタイヌの方へ跳ねていった。

 つまり逆走である。

 これでまともにゴールする可能性があるのは、ワタブタで確定した。

 とてとてとゴールの手前まで来ると、ワタブタはワタウサギを気にしてか振り返る仕草をしたあと、ゴールのラインを短い足で通過した。

 ワタブタの一位確定の瞬間である。

「きゃあああ! 見て見て! ワタブタちゃんが勝ったよおおおおお!」

 嬉しさのあまりユージェニーはエリーアスに抱きつき、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。

 心底嬉しくて見上げると、エリーアスはいつもより少しだけ、柔らかな表情をしている。

「はいはい、よかったですね」

 相変わらずの無表情で告げるエリーアスに、子供をあやすようにぽんぽんと頭を撫でられた。

「んも~、もうちょっと一緒に勝利を分かち合ってくれてもいいじゃない」
「牛ですか」

「もうっ! 少しは喜びなさいよ。あのおデブなワタブタちゃんが、一着だったんだよ。他のワタモノと違ってファットなボディで健気に頑張った結果なの」

「……それはよかったですね」
「全然喜んでないー!」

 エリーアスと勝利の喜びを分かち合いたいユージェニーは、不満をあらわにする。

「確かにワタモノは可愛いですが、私はあなたをおちょくってるほうが楽しいので。さ、報酬を受け取りに行きますよ」

 言いながら彼女の手を取ると、エリーアスに精算所に誘導される。

「もう少し、勝利の余韻に一緒に浸ってくれたって良いのに……」
「こんな非公式で人が多い場所は、用が済んだらとっとと退散するに限ります」

 そうして二人は場外の精算所へ移動したのだった。

 

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護衛騎士は~
~桜猫*日和~